(今回の画像はサムネイル表示になっています。)
秋田県能代市は県の沿岸北部に位置し青森県との県境までは
小一時間ほど。
そしてその県境から沿岸を北上すると白神山地近辺に水源を持つ独立河川が多く存在している。
有名なところでは赤石川、追良瀬川、吾妻川、笹内川など。
今回私達が向かったのはそんな有名河川ではなく、沿岸で一番南の入良(いら)川とそのすぐ北にある津梅(つばい)川。
いつもなら川の名前は明かさないのだが、明かす理由は後ほど。
まずは国道101号線から入良川の入り口を確認してから
すでに知っている津梅川に先に向かった。
林道の両脇の草木は鬱蒼と生い茂りなかなか朝日が射してこない。

しばらく上ると宮城ナンバーの車が入っていた。
まだ釣りを始める前の準備中だったようだ。
悪いがもっと上流からやらせていただく。
途中何段か大堰堤を見た。私の大堰堤の定義は遡上できるか否か。
出来れば大ではなく、出来なければ大である。

九月だけあって朝晩の冷え込みは強い。
10℃を下回っていた。
朝飯にお湯を沸かしカップ麺をすする。
体の芯から温まる。
気負い過ぎず渓魚との出会いを楽しみたい。
いつもより肩の力は抜けているような気がする。
何段か上がり反応が無かったが、そのうち出るさと簡単に考えていた。
雨が続かず水量は少ないため、水深のある流れに毛鉤を流していたが何となく岸寄りの浅い流れに18番のパラシュートを流した。
青白い流れの下で黒い影が上流から下流に向かい
不意に向きを変えた。
ゆっくりと口を開きゆっくりと毛鉤をくわえる。
グ、グッと竿先から手元に伝わる心地よい感覚。
青森で釣れたイワナは大きな白い斑点を持ち可愛らしい顔をしていた。

20cmほどのイワナは尾鰭の隅と腹部が橙色をしているこの川の野生種。この川は管轄漁協がなく、放流されていないため自然繁殖で世代交代をしてきた魚が住んでいる。
いかにも魚が入っていそうな所からは快い返事が無い。
あまり活性は良くないのだろうか。
それでも同行した宮氏もしばらくすると堰堤の下で数尾のイワナに出会った。さすがである。今期行った同行者の中でも唯一のフライの先輩である。いろいろと勉強させられる。
しばらく釣り上がり林道を歩いて帰ってくると
こんな低温にもかかわらず小さなクワガタがいた。
寒さのせいか動きが鈍いようである。

この川の上流域には落差のある流れがあり期待できそうだったが
出てくれなかった。餌釣りの人には向いているかもしれない。

場所を変えてずっと下流部に来ると宮氏にはヤマメが釣れた。
釣れない私は地元のおじさんと立ち話である。
必要も無い堰堤のおかげで鮭は上がる事が出来ず産卵を前にして力尽きるものがいるそうだ。
林道を下がってくる時に見えたが、堰堤の魚道が砂で埋まったり魚道に水が流れていなかったりで鮭鱒達は遡上を阻まれていた。
釣れない私は下流に向かい川から日本海を眺めた。
魚が沢山見えたが何かハッキリと確認できなかった。
小さなヤマメと鮎がいるようだった。

そして大きな黒い魚体が見えた。
遡上してきた鮭である。
最初は一尾しか見えなかったがよく見ると三尾ほどが確認できた。
おじさんが言ったとおり鮭がやってくるのだ。
管轄漁協が無いということは鮭の稚魚も放流はしていないのだろうか。
だとすればこの鮭もまた自然繁殖でこの川と海を行き来してきた鮭達の子孫なのだろう。
まあ数は釣れなくても森の澄んだ空気をいっぱい吸い込んで気持ちが良かった。
鮭も見ることができたし。
(ここから先は非常に悲しい出来事です。
読後に気分を害するかもしれません。愚行です。)次に当初の予定通り入良川に向かう。
そしてここであまりにも悲しい出来事に遭遇する。
国道から川沿いの林道まではすぐだ。
河口近くでは護岸工事が施されていた。国道のすぐ下なので崩落の危険があっての工事だろうか。先ほどのおじさんの話が思い起こされる。出来る限り自然のままの状態にしてはおけないものか。人間が居る限りそんな事は無理なのだろうか。
小さな橋を渡り国道が見えなくなると、林道の左手に草刈をする地元の人がいる。確かこの流域に集落などは無いはずなので近くの集落の人が見かねてやっているのだろう。
少し先の右手に二台の車が止まっている。
バックドアを跳ね上げているのでナンバーは見えない。
6,7人の男がなにやら慌しく動いている。
九月のこの時期に水中眼鏡、髪が濡れている男もいる。
40才代から50代といったところか。
ウエットスーツを脱いでいる男もいる。
そして奥の車にはヤスが数本。
一人の男がスーパーの買い物袋にいっぱい詰め込んだ何かを
クーラーに詰め替えている。
鮎とイワナの姿が見えた。
すぐ近くに車を寄せた。こちらを見ようとしない。
わざと話しかけた。
「イワナ?」ぶっきらぼうに言ってやった。
ばつの悪そうな顔をして一番手前の男が振り向いた。
「・・・」
「ずっと上まで行ってきた?」またぶっきらぼうに言ってやった。
「いや、すぐそこら・・・」
嘘をつけ。すぐそこらでこれだけの人数が必要か?
この人数でこの規模の川に入り沢山の魚を突く。
産卵を控えた魚達は根こそぎ突かれ
そしてこの川の魚達は居なくなる。
いや、正確には残っている魚もいるだろう。
しかしこの川は当分の間死んだも同然になるわけだ。
近くに第三者がいたから話かけたが
相手が相手なら何をされるか分からないだろう。
実際北海道では監視員が刺される事があったらしい。
でもなんだか許せなかった。
上に行ったところで荒されている。
帰る事にした。
助手席の宮氏がぽつりと言った。
「ブルーだな」